中国マーケティング情報マガジン | Business China

越境EC/インバウンド集客/ライブコマースをはじめ、中国マーケティングに関する情報を解説!

中国市場の攻略法が変わった! SNS「小紅書(RED)」に学ぶ、ファンとブランドを“共創”する新時代のマーケティング戦略

はじめに:なぜ今、日本のビジネスパーソンが中国のSNS「小紅書(RED)」に注目すべきなのか?


本稿は、中国のEC・SNSプラットフォーム「小紅書(シャオホンシュー/RED)」を題材に、現代中国の消費トレンドと、これからの時代に求められる新しいブランド戦略を解説するものです。
ペットフードというニッチな市場で、わずか数年で売上を数百倍に伸ばした新興ブランド「藍氏(ランシー/Legend Sandy)」※ の事例は、決して対岸の火事ではありません。そこには、日本の国内市場においても応用可能な、次世代マーケティングの普遍的なヒントが隠されています。
※ 藍氏(ランシー/Legend Sandy)とは?
本稿で成功事例として取り上げる、中国の新興ペットフードブランド。創業後、小紅書(RED)のコミュニティを起点とした独自のマーケティング手法で驚異的な成長を遂げ、現代中国の新しいブランド戦略を象徴する存在となっています。
この記事から、以下の3つの重要な視点を得ることができます。
1.「機能」より「感情」で選ばれる時代へ: 商品のスペックだけでは消費者の心は動かない。「共感」や「世界観」といった情緒的価値の重要性。
2.「広告」から「対話」へ: 企業からの一方的な情報発信ではなく、ユーザーとの対話を通じて信頼を築き、ブランドを共に育てていく手法。
3.「消費者」から「共創パートナー」へ: ユーザーを単なる買い手ではなく、ブランドの魅力を広めてくれる「ファン」であり「仲間」と捉える新しい関係性。

1. 背景:中国市場で起きている3つの地殻変動


「藍氏」ブランドの急成長は、以下の3つの大きなトレンドを的確に捉えた結果です。
・消費トレンドの変化:「モノの豊かさ」から「心の豊かさ」へ
○経済成長を経て物質的に満たされた中国の消費者は、単に良いモノを求めるのではなく、生活の質を高め、自己表現に繋がり、心を満たしてくれる「体験」にお金を使うようになりました。特に「癒し」や「共感」を求めるペット関連市場は急成長しています。
・ブランド認知の変化:海外ブランド信仰の終焉と「共感できる国産ブランド」の台頭
○かつて高品質の代名詞だった海外ブランド一強の時代は終わり、化粧品やベビー用品、ペット用品などの分野で、消費者のインサイトを深く理解した国産ブランドが支持を集めています。消費者は、機能性以上に「このブランドは自分たちの価値観を理解してくれているか」を重視するようになっています。
・経営層の世代交代:「生活者目線」を持つ若きリーダーの登場
○85年以降生まれの若い経営者が増え、彼らは自身のリアルなライフスタイルや価値観を製品やブランドに反映させています。その結果、企業やブランドに「中の人が見える」ような人間的な温かみや親近感が生まれ、消費者の共感を呼んでいます。
これらの変化が交差する中で、「小紅書(RED)」は、ブランドがユーザーとの人間的な繋がりを築き、ニッチな市場で熱狂的なファンを獲得するための最適なプラットフォームとして機能しているのです。

2. なぜ「小紅書(RED)」でブランドは育つのか? ― 鍵は「信頼」と「対話」


小紅書(RED)におけるブランド戦略は、従来のマス広告やインフルエンサーに商品を「売ってもらう」アプローチとは全く異なります。その核心は、ユーザーとの対話を通じて「信頼」を勝ち取ることにあります。

● 信頼の源泉は「人」:企業アカウントより「あの人」のオススメ
○ユーザーは、企業からの公式発表よりも、信頼するインフルエンサー(KOL)や、自分と似た価値観を持つ一般ユーザーの「生の声」を信じます。特に、美容やペットのように長期的な信頼関係が重要な分野ではこの傾向が顕著です。
○成功事例(藍氏): 当初、藍氏は有名なKOLに提携を断られました。しかし、諦めずに自社の製品開発への想いや品質検査報告を誠実に共有し続けた結果、KOLの心を動かし、深い信頼関係に基づくパートナーシップが実現しました。これは、テクニックではなく、真摯な対話こそが信頼を生むことを示しています。

● ユーザーとの「対話」がブランドを創る
○藍氏は、マーケティングを「消費者コミュニケーション」と位置づけています。
○成功事例(藍氏): 主力キャットフードの粒の形状について、ユーザーが「ドーナツみたいで可愛い」とコメントしたことをきっかけに、公式に「ドーナツ」という愛称を採用しました。このように、ユーザーの声を積極的に拾い上げ、ブランドのアイデンティティ形成に取り入れることで、「自分たちのブランドだ」という当事者意識と愛着を育んでいます。
○藍氏の創業者は語ります。「なぜ買ってもらえなかったかを分析するより、なぜユーザーが喜んでSNSでシェアしてくれるのかを深く考えるべきだ」。

● 「売る」より「伝える」:価値観の発信がファンを惹きつける
○藍氏は「21日間飼育健康診断プログラム」という、収益を目的としない公益性の高いプロジェクトを実施。「科学的な知識で飼い主の不安を減らし、ペットとの幸せな関係を応援する」という純粋なメッセージは多くのユーザーの共感を呼び、自発的な口コミの輪を広げました。短期的な売上ではなく、ブランドが大切にする価値観を伝えることが、結果として長期的なファンを育てるのです。

【日本のビジネスパーソンへのヒント】
小紅書(RED)は、「人格化された公共空間」と表現できます。ここでは、企業が主役なのではなく、「人」から「人」へと伝わるリアルな体験や評価が、最も信頼される情報となります。自社のブランドは、顧客とこのような「人間的な対話」ができているでしょうか?

3. ブランド戦略の進化:マス広告時代から「ファン共創」時代へ


中国におけるブランド構築の手法は、この20年で劇的に変化しました。

この変化の根底にあるのは、マーケティングの主役が「企業」から「コミュニティ/ユーザー」へと移り、消費者が求める価値が「機能」から「精神的な繋がりや共感」へとシフトしたことです。

4. これからの時代に成功するブランドの4つの条件


小紅書(RED)で成長するブランドには、業種を問わず共通する4つの特徴があります。これは、これからの日本市場でブランドを構築する上でも極めて重要な指針となります。
1.高い「情緒的価値」を持つ
○「この製品は何ができるか」だけでなく、「このブランドを持つ自分は何者か」を表現できること。機能を超えた世界観やストーリーが重要です。
2.巨大ブランドがいない「未成熟な市場」を狙う
○市場が成熟しきっておらず、消費者の頭の中に「このカテゴリなら、あのブランド」という固定観念がない分野。新しいブランドが独自の物語を語り、消費者の心の中に最初のポジションを築く大きなチャンスがあります。
3.「長期的な信頼」が求められる製品である
○ペット用品や化粧品、ベビー用品のように、一度きりの購入で終わらず、継続的な利用(リピート)が前提となる製品。顧客と「取引」するのではなく、「寄り添う」関係性が不可欠です。
4.ユーザー自身が「メディア(発信者)」となる
○ユーザーが単なる受け手ではなく、製品の共同制作者であり、ブランドの魅力を広めてくれるパートナーになる。企業は、ユーザーが語りたくなるような「ネタ」や「素材」を提供し、口コミの連鎖をデザインすることが求められます。

まとめ:ブランドは「売る」から「仲間を見つける」へ


小紅書(RED)の成功は、マーケティングの新しい潮流を明確に示しています。それは、不特定多数に商品を売り込むのではなく、価値観に共鳴してくれる「仲間」を見つけ、共にブランドを育てていくという考え方です。
この動きは、プラットフォームのビジネスモデルさえも変えようとしています。単に広告枠(トラフィック)を売るのではなく、ブランドとユーザーのコミュニティ形成を支援し、その成長に貢献すること自体に価値を見出す、という新しい方向性です。
製品やブランドは、その時代に生きる人々の価値観を映す鏡です。日本のビジネスパーソンにとって、中国で起きているこの変化は、自社のブランドと顧客との関係性を根本から見直す、またとない機会となるでしょう。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でbizchinablogをフォローしよう!

コメントはこちら

*
*
* (公開されません)

Return Top