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【中国】個人運営のECショップへの課税を検討。価格差是正となれば越境EC出店企業にとってもプラス

【中国】個人運営のECショップへの課税を検討。価格差是正となれば越境EC出店企業にとってもプラス
中国ECにおいて個人事業主がECプラットフォームを通じてECショップを開くことはよくありますが、多くの場合、そこに出品される商品は個人輸入により関税や国内徴税から免れた形で販売されているため、正当な手順を踏んでいる法人EC出店者との著しい商品価格差が発生し、この問題が以前から法人担当者を悩ませていました。

このような悩みに対して、今回のニュースは一筋の希望の光となるかもしれません。徐々にではあるものの、個人ECショップに対する課税が検討され、少なからず推進方向に向かっているようです。

中国EC市場の各プレイヤーに対する課税を初審議


第12回全国人民代表大会常委会第25次会議(2016年12月19日開催)にて、全国人大財経委が提出した「中華人民共和国電子商務法(原案)」が、この度、初審議されました。これは中国EC分野における初めての総合的な法律原案であり、ECプラットフォームを取り巻くビジネス、各プレイヤーに対する新たな規定が述べられています。具体的には、課税に対する新たな規定、偽装販売や有償口コミによる評価水増しに対する規制、さらには迷惑電話や情報漏洩、物流途中での商品紛失に対する規定など、これまで中国EC業界の影となっていた部分に焦点が当てられており、明確で新しい規定が設けられているのです。今回の当記事に限っては、中でもECショップ(プラットフォーム出店者)への課税に対する規定について述べたいと思います。

中国EC市場における課税と不正防止の関係


今回の電子商務法原案では「ECプラットフォームに出店するショップの経営主体は法律に従って納税義務を履行するべきであり、ショップ経営主体が商品販売をし、またはサービス提供をする際は、書面による領収書または電子領収書を発行するべきである。」とされています。

これに対し、中国国務院のEC関連立法副組長で中国電子商取引研究センター主任の曹磊氏は「現在、中国の電子商取引には4種類のモデル(B2B、B2C、O2O、C2C)があるが、前3種類の売り手主体のモデル(ECプラットフォーム運営者、プラットフォーム出店者のいずれか)に関してはすべてが工商登記企業であり、既に当事業者の登記地で徴税管理が為されているため脱税はできない。」と述べています。これは、逆に言うと残りの1つであるC2Cモデルにおいて、個人事業主に対する課税の課題が残っているということになります。
また、曹磊氏は以下のようにも発言しています。「EC業界では優勝劣敗の生存競争が著しく、その過程では法的な縛りはなくとも不正同然の行為が多々発生している。’’刷単’’がその代表的な例で、これは『偽装販売による販売数水増しと高評価水増し』を意味するが、これでは競争が公平でなくなる。特にC2Cモデルによる個人運営のECショップではこういった不正が多く、このような事態に対して、売上ベースによる累進課税システムを設け、EC取引データとドッキングすることにより’’刷単’’行為を減らすことができるのではないかと考えている。個人事業主や中小零細企業に無理のない範囲で徴税することができ、さらにEC取引データの透明性が向上し取引環境がよりクリーンになっていくだろう。」

売上ベースによる累進課税システムとは、個人事業主出店者、企業出店者、プラットフォーム運営企業、各々に対して規定に基づき課税される仕組みです。例えば、売上が国の法定額に達していない事業者は免税される規定を設けたり、売上規模の小さい店舗に対しては課税額が少なくなるように規定し彼らを保護する仕組みだったりします。また、ECプラットフォーム運営者には、中小の出店者のマーケティングコスト、取引手数料、サービス料金などがある程度下がるような仕組み作りも推進されていくようです。

個人運営のECショップへの課税の積極化


中国電子商取引研究センター研究員で北京志霖法律事務所の趙占領弁護士は「個人事業主によるECショップへの課税は今後積極化する」と発言し、さらに「ECショップの権利、消費者の権利、工商監督、この3つの側面から見て、工商登記は必ず必要になり、したがって個人運営のECショップに対しても課税は必ず行われるようになる。」と述べています。さて、今後どうして個人ECショップの課税が進むのか、この3つの側面の詳細を見ていきたいと思います。

まず、ECショップの権利という側面から見たときに、そもそも個人運営であろうとECショップが工商登記を行わない限り、そのECショップの多くの権利が法律で守られることはありません。例えば、消費者や競合他社がネット上で虚偽の情報やデマを作為的に流し広まってしまった場合、信用が失墜し経営不振に陥ることも否めませんが、工商登記をしていない状態ではそのECショップには、なんら法律による保護を受けられることもなく、民事的な権利がないため訴訟を起こすことができません。また、そういった行為はECショップに対するものであり、店主(経営者)に対するものではないため、店主(経営者)が名誉毀損を理由に訴訟を起こすこともできません。他にも、店舗名称を商標として登録しておかなかった場合、見ず知らずの他者に利用され偽店舗が作られてしまう可能性もあります。このような場合でも正当な権利を守ることができなくなるのです。ECショップの権利を維持していくためには、工商登記が必須となり、したがって課税の漏れ落ちもなくなるということです。

次に、消費者の権利という側面ではどうでしょうか。消費者は偽物や粗悪品被害にあってしまった場合、取引プラットフォーム内での解決が難しいと判断された場合、法律手段をとることになりますが、まず消費者は売り手の素性を詳しく調べる必要が出てきます。しかし、「網絡交易管理方法」により、個人運営のECショップはプラットフォーム側で実名認証さえ出来ていれば、氏名、住所、身分証明書番号、連絡先などを公表する必要はないのです。さらにはトラブル発生時にはプラットフォーム運営者はショップ事業者の身分情報を提供する義務があるにもかかわらず、そもそも提供されている身分情報に偽りがあれば、消費者は起訴を起こすことすら困難になります。かと言って矛先をプラットフォーム運営者に向けたところで、そのプラットフォーム運営者の登記所在地での起訴となるため、場合によっては訴訟を起こすだけで現地まで足を運ぶなど、消費者自身の負担が増すことになります。消費者の権利もきちんと守られていくべきことと考えると、個人運営であれECショップの工商登記は必要不可欠となります。ゆえに個人EC事業者は課税対象として表に出てくることになります。

最後に、工商監督の立場から見てみましょう。偽物や’’刷単’’の問題は個人ショップで非常にひどく、この問題をプラットフォーム運営者への批判だけでは解決することができません。根本的な原因は、各地域の工商部門での管理が行き届いていないことにあります。厳格な取締りがなく、工商登記のない個人ショップに対して、工商部門は経営主体の情報を把握することができていません。さらにはプラットフォーム運営者と工商部門の間の協力体制が依然として未熟なため、工商部門が管理しにくい現状もあります。このような状況ではいつまでたってもEC市場が不透明なままとなり、工商監督サイドとしても早急に対処が必要となるわけです。

個人ECショップへの課税推進に立ちはだかる壁も


さて、上記のような個人ショップへの課税が積極化されるという見解があるものの、課題も多くあります。

その1つに、個人事業主に対する「経営場所の制限」があります。現在ほとんどの地域で個人事業主に対して経営場所の規制をかけており、その結果、多くの個人ECショップは経営者の自宅で営まれています。これにより経営主体が見えづらくなり不正や脱税の温床となりかねません。この課題には、各省以下政府にて個人宅での経営許可を出すことで解決することでしょう。

また他にも課題があります。今回の原案「電子商務法」が実施されると、国務院レベルでもそれに合わせた具体的政策が必要になり、さらには工商総局でも経営場所に関する規定を全国で統一していかなければなりません。

そして、なによりも課題になるのが、個人事業によるECショップはその事業規模に比べて金銭的コスト、労力的コストの負担がともに大きいということです。プラットフォーム出店やショップ運営にかかる金銭的費用、そして工商登記が必須になればその手続きは非常に複雑であるため膨大な労力コストや専門家へのアウトソースコストがかかります。それゆえ、工商登記手続きの簡素化、売上一定ライン以下での免税、もしくは減税などの優遇措置も必要になってくるでしょう。さらには非営利組織、個人の労働力を提供する事業体、家業、農産物の直売事業者なども今回の原案では適応しづらく、国務院が別途で関連規定を決めていく必要もありそうです。

このように個人ショップへの課税の推進とそれに迎え撃つ壁が存在するものの、徐々に課税の動きが出てきていることは事実であり、個人、法人、各事業者にとって市場が公平に最適化されてきていることは間違いなさそうです。

 

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