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中国インフルエンサーマーケティングの闇

中国インフルエンサーマーケティングの闇
少々前のお話になります。10月3週目、中国であるメーカー会社の起業家のブログが注目を集めました。彼は自社の商品のプロモーションとして、あるインフルエンサーを起用し商品を紹介するVLOG(ショートビデオ)を作って公開してもらったのですが、動画の再生回数やコメント数の大きな反響とは傍、全く商品の売り上げに繋がらなかったのです。一見、「単純に商品に魅力がなかったのでは?」「インフルエンサーマーケティングによくあることではないか」と思われそうな出来事ですが、この一部始終を詳細に語った起業家のブログは、中国のインフルエンサーマーケティングの闇を映し出す結果となりました。この記事では、それを詳しくご説明できればと思います。

VLOGとは?



まず、VLOGについて少しご説明します。日本でインフルエンサーマーケティングというと、YouTuberやインスタグラマーを起用し、自社の商品だけを紹介するビデオや投稿をしてもらう、というのが主流です。こうしたインフルエンサー(KOL)のフォロワー数や、KOLの普段の投稿から推測されるフォロワーの属性・関心などから、企業側は自社の商品ターゲットとの相違がないか、十分な認知を生めるか、などといった判断軸から、KOLを選出します。

こういった仕組みの中で、あまりに広告色が強い投稿をすると、そのKOLの自身のブランディングに支障をきたしファンの離脱につながってしまうなどといった観点から、いかに広告を普段の投稿に溶け込ませて自然に発信ができるか、という方法が求められるようになっており、そこで注目が集まっているのが「VLOG=Video Log」と言われるものです。これは、動画を使って普段の日常を発信するもので、日記の動画版とも解釈されます。TikTokなど、誰もがある程度質の高い動画を作成できるようなサービスが多数出てきた中で、1日を動画という形で残すことがある種のトレンドになっています。VLOGではある1日をまとめているため、例えば何か商品をプロモーションしたい時も、かなり自然に紹介ができるという強みがあり、日常消耗品やヘルスケアなどの分野でとても相性がいいのではないかと言われています。

【参考VLOG】(かなりレベルが高いVLOG動画です。)


中国ではこのVLOGのジャンルでも多くのインフルエンサーが誕生し始めており、VLOGを作っているインフルエンサーを束ねたMCN(Multi-Channel Network)も多数生まれています。MCNとは簡単にいうと、インフルエンサーの事務所のようなもので、広告などの企業案件の窓口、KOLのキャスティングなどをしております。

インフルエンサーマーケティングに何が起きたのか?



今回ご紹介する事件は、メーカーの起業家(Aさん)と、あるMCNの間で起こりました。
問題になったのは「蜂群媒体」というMCN。これはWeibo Videoが今年の7月に発表したMCNランキングで1位を獲得、同様にインフルエンサーランキングでも1位を獲得したKOLが所属しているMCNでもありました。初めてこのような形で商品のプロモーションを行うAさんは、その蜂群媒体MCNの中でも、380万人のファン数を持つ「张雨晗YuHan」というKOLを起用しました。彼女はVLOGを作っており、どの投稿も100万を超える閲覧数や1000以上のコメントが付いているようなインフルエンサーでした。Aさんは広告費を支払い、彼女に商品の紹介を含んだ動画を作成、投稿してもらいました。いざ動画が投稿されると、すぐさま閲覧数は10万を超え、何百ものポジティブなコメントが投稿を埋め尽くしました。コメントの中には「注文しました!」「すぐに買った」などの購買を表すものも数多く、Aさんはこのプロモーションの成功を確信していました。

KOL関連データ

事態が急変したのは、Aさんが実際に自社商品のECストアの数値データを見たときでした。これほどの動画の反響にも関わらず、実際のストアの取引数や訪問客数すら何も変化がなかったのです。10万単位で増えていく動画の視聴数とは全く関係ないかのように、ほとんど変化が見られない売上。ストアにたくさん人が来た上で売上が伸びないのでしたら、それは商品に魅力がなかったという判断ができるかもしれませんが、そもそもストアにすら人が来なかったのです。Weiboでの数値データは嘘ということなのか、すぐさま蜂群媒体MCNに問い合わせるにも曖昧な答えしか得られませんでした。
次の日、その動画の閲覧数はなんと353万に到達するも、ストアの訪問客数にはなんら大きな変化がありませんでした。流石におかしいと感じたAさんは蜂群媒体MCNを訴えようとしましたが、MCNと交わした契約書の中にはクリック数やコンバージョン数を保証する文言は入ってなく、法で裁くには証拠不十分という判断をされてしまいました。

インフルエンサーマーケティングの裏側の闇



この一部始終を語った起業家Aさんのブログは大きな反響を呼び、各種メディアに取り上げられました。Weiboもこの虚偽の数値の疑いがあるYuhanのアカウントを凍結する処置を下しました。中でも注目が集まったのは、もともと起用する上で重要な数値である「ファン数」です。Weiboには、ファン数にカウントされているアカウントの中で、直近アクティブ化したアカウントのみをカウント数値を見ることができる機能があります。この数値こそがそのKOLの実際のリーチ数と考えることができます。凍結されたYuhanの場合、ファン数は381万と書いてあるにも関わらず、なんと実際のリーチ数は1.02万だったのです。

WEIBOお知らせ

同じ方法で他のKOLを調べてみると、多くはファン数の数%しかリーチ数がないような方ばかりで、50%を超えているようなKOLはほとんどいなかったのです。また、Weiboのランキングで1位だったMCNである蜂群媒体MCNに関しては、Aさんが起用するKOLを選ぶ際に送られてきたリストに載っている人を見てみると、どの人もリーチ数が数万しかいないような人ばかりでした。こうなってくると、Weiboに表示される「ファン数」というこの数値は、一体なんのためにあるのでしょうか、そんな思いにさせられます。

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日本のインフルエンサーマーケティングの未来



インフルエンサーマーケティングが主流になり、その方法も商品写真の投稿からVLOGへ多岐に渡り始めています。そこでインフルエンサーを評価する上で重視されている「ファン数」(日本の場合はFollower数)を偽造することによって、偽の「影響力」を作り出すMCNが中国では出てきているのです。たくさんのスマホ端末を遠隔で繋ぎ、アカウントの作成・操作をするといったことは容易にできるような時代です。

KOL水増し工場

日本ではまだこのような事件は起きておりませんが、中国のトレンドを後追いしている日本の現状を考えると、今後注意しなくてはいけないと考えます。このような数値データの偽造は、MCN側の巧妙さもありますが、プラットフォーム側のツメの甘さの露呈、とも捉えることができます。日本では現状、Instagram, Twitter, YouTube、そしてTikTokなどが、インフルエンサーマーケティングの中で主要なプラットフォームとなっています。これらのプラットフォームは世界的にも展開しており、偽造ができるようなシステムではないかもしれませんが、今後新しいSNSが次々と生まれ、または現在のプラットフォームの穴を見つける人たちが現れた時に、最初の被害者にならないための対策は意識しておく必要があるのではないかと、考えて頂けるきっかけになればと願っております。

 

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